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おだやかな日々に

なくてぞ人は 30

無影燈
 風邪引きて蓬髪のままゐたりけり山吹の花ゆれやまずけり
 ぽかーんと五月の空の明るくて通りまばらなる真昼の舗道
 葉をゆらし五月の空に立つポプラゆらりゆらりと遠き思ひ出
 梅雨いまだ明けざる重き曇り空湖の面に立つ波もなし
 網を掛くる竹に鵜のゐていつまでも動かず湖の永き夕ぐれ
 立つ竿に五つゐる鵜と数ふるに見えずと嘆く眼鏡屋の君

 歌集「無影燈」はここで終わっている。

 この後、がんとの壮絶な戦いが続き、七十三歳の生涯を閉じた。
長坂某氏は沃野後記に『・・・その数日後に訃報が届いた。古くからの仲間で、五月に見舞った時逢ったのが最後となってしまった。まだまだ若かったのに。手許に最後の葉書がある。「・・・遅々として治る気配見えず、医療の最先端という環境に居ても限界に阻まれて居るようです。本人が頑張るしか無いようです。」とあるのにもう頑張ることもなくなってしまった。』と記された。

 兄の葬儀には大勢の短歌の仲間が集まって下さった。歯に衣着せず、ずばずばと物を言う憎まれっ子の兄とばかり思っていたので、私は本当に驚いた。
 兄亡き後、山本かね子さんの挽歌が載った。
 雅雄、敏治こよなく酒を愛したり訪れよ越の酒あたためん
 男の友ら次ぎて逝きけりつゆ寒の酒にぬくもらぬ涙の胸は
 大会の夜に論戦を挑み来し雅雄若かりき健やかなりき





 







  1. 2006/08/21(月) 23:25:08|
  2. 短歌など
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:11
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コメント

ぽかーん  はいいですねぇ

ぽかーんと五月の空 ポプラゆらりゆらりと  なんとも力の抜き具合がいいですね。はじめの頃と中盤とおしまいでこんなに色合いが違うなんて、驚きです。
実際の人生はこの後がたいへんだったのですね。でも、若い日の闘病期のクライマックス的歌とは違う色で歌集が閉じられているのは残された歌集としてはとてもよかったのではないでしょうか。
お兄様の歌と、それを綴る雲さんの筆の両方に感動しました。雲さんとお兄様に感謝です。(^^)
  1. 2006/08/22(火) 00:13:48 |
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  3. take #5RIkxCRk
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感想

間髪を入れぬコメントをありがとうございます。
歌の解釈は、読者の年齢や、経験、知識、その時感情、感覚の位置などによって自ずから違いが出てくると思います。
「前編は凡て生前の植松先生からOKを戴いた歌という事になり、後編は高橋荘吉師の目が通っている。つい未練が残って整理せねばならない歌も混じってしまっているかと思うがこの辺が著者の実力であろう。」とあとがきにあります。
 このブログには私自身が選んだ歌を取り上げましたが、歌集を読んで下さったアララギの大先輩(故人)の感想文がありますので、引き続き勉強の為に書いてみたいと思います。今暫くお付き合いください<(_ _)> メルシボク!!
  1. 2006/08/22(火) 15:09:34 |
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  3. 雲 #-
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感想の感想

雲さん。
「なくてぞ人は」本編の方は、一区切り付きましたね。
長い連載有難うございました。
引き続いて先達の感想、楽しみにしております。

>歌の解釈は、読者の年齢や、経験、知識、その時感情、感覚の位置などによって自ずから違いが出てくると思います。

詠まるる歌は巧拙の他ないけれど、歌評は誤りてふ区分も在りますので怖い怖い。(汗)
お兄さまの御歌の数々、うかつに評はと考える間に…
色々勉強になり申した。(^^)

ひとつの了解は、歌の上達や出来栄えと経験年数・年齢との相関です。
”単純な右肩上がり・やってれば上手くなる”ではない。
逆に老いて衰ふるにも見えない。
お兄さまは、一生の時代のそれぞれに良いお歌を遺されましたね。

  1. 2006/08/22(火) 17:18:33 |
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  3. ひの字 #mQop/nM.
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感想の感想の感想

雲さん
長い間の連載、わたくしも折々に読ませていただきました。ありがとうございました。身内の遺した歌に対する向かい方として、貴重な嚆矢と考えます。わたくしも父がおりますので、いつか、と思いました。

つらつら考えますに、単純化の行き届いた歌は、時代の移り変わりにも古びずに、人の心に訴えてきますね。お兄様のお歌の数々もそのように読ませていただきましたよ。

歌の解釈の巧拙や違いの上方に、この単純化というものが位置しているような気がしております。

ただ、その時々、時代時代の瞬間風速のような意識、感じ方というものも、はっきりとあり、それらを常に、できれば自家薬籠中のものとしつつ、そのうえで単純化を進めた歌が出来ればと、そんな妄想とも幻想とも理想とも、はっきりとは掴めていないカンジをもっております。

このあとの、続なくてぞ人は、を楽しみにしております。 ^^v
  1. 2006/08/22(火) 22:06:21 |
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  3. chitetsu #-
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怒るな転ぶな・・・

ひの字さん、コメントをありがとうございます。
短歌会には、頭脳明晰な方々、経験豊富な方々が掃いて捨てるほど・・居られますが、その中でずうずうしくも歌を作り続けて居られるのは、歌が短詩型であること、言葉数が限られていることで、そこに自分の感情をぶち込めば形になるからだと思っております^^; しかし批評となりますと、なんだつまらない歌だなぁ、と思っていた歌が、知識経験勉強不足の為に読みが浅かったと赤恥をかくことしばしです。でも、それはそれで、各自がその批評を自己分析して消化すれば良いわけで、先般の特別歌会でも、某選者の方は、「批評の標準は百人百様、苦しんで見つけてゆくほかない。」と発言しておられました。
酷評されてカッと来ませんか?と仰ったかたが居られましたが、私の場合は青菜に塩、しょんぼりしてしまいます。本当はカッと来るくらいでなくてはいけないのでしょう。
老人訓、「怒るな転ぶな義理を欠け」を実践しているわけでも無いのですが・・・^^;
  1. 2006/08/23(水) 09:43:56 |
  2. URL |
  3. 雲 #-
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ドキンの歌

chitetsuさん、度々コメントを戴きまして、有難うございます。
写生写実の歌と例えば昨年発表された三日月さんの感覚的な歌と私はその両方に魅力を感じております。ある時、ふと肌に風を感じてドキンとする、そこからイメージが具象化されて歌になった、そんな歌はやはり読むものもドキンと致します。また、心に歓喜、或いは深い悲しみ、苦しみをもって自然に接する時、その対象が例え1本の草であっても震える様な感動が伝わってくる、その時読まれた1本の草は生きた感動を読者に与える。それが、本当の歌だと思うのですが、平凡な日常の生活の中から詩を拾い集めるのは大変です・・・これは私のことです(^^;)
「時代時代の瞬間風速のような意識、感じ方というものも、はっきりとあり、それらを常に、できれば自家薬籠中のものとしつつ、そのうえで単純化を進めた歌が出来ればと、そんな妄想とも幻想とも理想とも、はっきりとは掴めていないカンジをもっております。
」お父様のお作りになられなかった歌へと続くと宜しいですね。
心の中で、後半の兄の歌を「へん。。」私と思った私は結局兄を越える事が出来るのか、大変あやしくなって参りました。 
  1. 2006/08/23(水) 10:07:44 |
  2. URL |
  3. 雲 #-
  4. [ 編集 ]

思うこと

歌のことは分かりませんが、感じるものはあります。
長い連載でした。お兄様の半生をかいま見たような。
人生の間には、歌えなかったこと、自分自身には見えなくて歌われなかったこと、その折り折りの感性で受信できなかったこと、沢山あると思います。歌を通して見る人間と生身で見る人間も随分違うと思いますが、生身だけを見て評価されるのは淋しいですね、歌を通せば心も見て理解して貰えます。
こんなことを書くのは、今現在生身だけで評価され厄介者とされている兄がいるから。彼の心の内を見れば、マイナス面だけの評価ではなくなるのではないかと、哀しく思うからです。
  1. 2006/08/23(水) 11:05:34 |
  2. URL |
  3. わかめ #gGsLOqyI
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きょうだい

兄弟姉妹の関係は千差万別、他人のはじまりと言われますが、血の繋がりを否定する事は出来ません。仮に憎しみを感ずる事があったとしても、同じ位の深い愛情もあるわけで、そこがジレンマといえるかも知れませんね。亡くてぞ人はまことに恋しかるべき存在となってこころに蘇って・・・人間は我が儘ですね。
  1. 2006/08/24(木) 14:44:55 |
  2. URL |
  3. 雲 #-
  4. [ 編集 ]

素晴らしいコメント

ここで交わされるコメントの数々、それだけでもう感性あふれる詩であり、人生であり、心打たれるものがありますね。
やはり雲さんの持つ並みの人間を越えた(?)力だと感服しています。
長い間、有難うございました。
  1. 2006/08/24(木) 22:06:22 |
  2. URL |
  3. サイコ #ZeC0G1NE
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73歳の人生に感動

雲さん、お兄さんは戦後日本の豊かなサラリーマン人生を満喫されたと理解しました。戦中の結核療養を嘆き、戦後は労働運動に身を投じ、酒に溺れるなど、僅か4,5年違いの逸見先生の「白き風」のどこにもありません。銀行一筋、朝から夜中まで紙幣を数えて、預金目標の達成に身を粉にして働いた典型的なサラリーマンと比較してしまいました。かたや、私の先輩N氏は肺結核の後遺症こそ嘆きましたが2千人の系列企業の副社長を65歳定年で退職したことは先日書きましたが、波乱万丈の人生はその後にありました。弁護士志望の独り息子の離婚と交通事故死と続くのです。N氏が短歌を始めたのは81歳、緑内障で全盲になった時です。今日は此処まで、
  1. 2006/08/25(金) 01:52:32 |
  2. URL |
  3. y-ben #-
  4. [ 編集 ]

人生いろいろ

サイコ さん、y-ben さん、コメントをありがとうございます。
サイコたん、コメント寄せて下さいます皆様に、本当に感謝です。兄もきっと喜んで居る事と思います。私に関しては コッパズカシイから 穴 穴! ^^;
y-ben さん、人生色々ですね。兄弟でもそれぞれ。兄の一生は病に祟られたものでしたが、短歌と出会った事が兄にとって本当に幸せであったのだなぁとしみじみ思いました。
  1. 2006/08/25(金) 20:07:43 |
  2. URL |
  3. 雲 #-
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